◆社員のやる気が無くなるマネジメント
■ 1.【日常の違和感・痛みの自覚】
「ウチの社員はやる気が無いし、自発的に考えることができない」と、部下の姿勢に頭を悩ませているリーダーは少なくありません。
しかし、彼らが自発性を失い、思考を止めてしまった背景には、組織の中に「本人のやる気」とは全く別の原因が潜んでいることがあります。
良かれと思って取り入れた指導法が、気づかぬうちに部下の成長の芽を摘み、組織のエネルギーを奪う構造について考えていきます。
■ 2.【セッション事例】
以前、私がコンサルティングに入っていた急成長中の会社さんで、こんなことがありました。
(許可を得て、本人が特定できないように加工してご紹介します)
その会社さんは事業が急拡大していたため、早期に属人的な体制から仕組み化へと移行する必要がありました。
そのため、月1回、社長と各部署のマネージャー、そしてGoogle広告の運用担当者が参加する全体コンサルティングの場を設けていたのです。
議題は多岐にわたり、「売上の乱高下を安定させたい」「魅力が落ちてきた商品の売上をテコ入れしたい」「広告への過度な依存から脱却したい」「新規事業を立ち上げたい」といった、経営の根幹に関わる重要なテーマばかりでした。
そして、その全体コンサルの最後に、毎回Google広告担当のAくん(当時20歳ほど)から結果報告がありました。
「〇〇の仮説を立ててABテストした結果、Aが良かったです。
次に〇〇の仮説を立ててテストした結果、Bが良かったです」
彼の報告は毎回このような内容で、私がコンサルに入って3〜4ヶ月が過ぎた頃、毎回ほぼ同じ報告の繰り返しで先が見えない状態が続いていました。
そこで私は、コンサルから帰る前にAくんから運用データを個人的にもらい、自分なりに分析してみたのです。
すると、私の分析結果とAくんの報告内容が全く異なっていました。
「あれ、私の分析方法が間違っているのかな?」と思い、何度も見直してみましたが、やはり結果は同じです。
そこで次のコンサル時、全体会議が始まる前に、Aくんの上司である30代後半のマネージャーBさんに確認してみました。
「もしかしたら私の分析が間違っているかもしれませんが、私なりに分析してみたらAくんの結果と違うんです。
ちょっと見てもらえませんか?」
マネージャーのBさんがデータを調べながら分析し直すと、「あちゃー、Aくん、間違ってますね。
岡崎さんの分析が合っています」と言ったのです。
全体コンサルが始まると、Bさんはすぐにその広告分析のミスを議題に挙げました。
「Aくん、データ分析はどんな方法でやってるの?さっき岡崎さんが分析してくれた内容を確認したら、Aくんの結果が間違ってたよ」
突然の指摘に、Aくんは「えっ?」と驚いた表情を浮かべました。
するとBさんは言葉を重ねました。
「おいおい、Aくんさー、月500万以上もかけて、何ヶ月も何やってんのー!しかもコンサルの岡崎さんに、すぐに間違いを見つけられてさ」
複数のマネージャーの中でも実力者であるBさんがそう発言したことで、他部署のマネージャーたちも同調し始めました。
「えー、マジで。
Aくん、勘弁してくれよ。
なんでそんなミスしてるんだよ」と、会議室がザワザワと騒がしくなります。
それを聞いていた40代の社長も、「おいおい、Aくん、いったいいくら広告費を無駄に使ってるんだ」と声を荒らげ、Aくんに非難の矢面が集中する形になりました。
20歳ほどの新人であるAくんは、背負わされた責任の重さに顔を引きつらせ、何も言えずに立ち尽くしていました。
重苦しい空気の中、私は疑問に思い、問いかけました。
「あれ?ちょっと待ってください。
Bさんは、Aくんに分析方法を教えてあげていなかったのですか?」
するとBさんは、こう答えたのです。
「Aくんには、自分で考えるクセをつけさせるために、まずは自分で調べてやるように言っています。
それで分からなかったら聞いてくるように、と伝えてあります」
Aくんは、私のコンサル開始とほぼ同時期に入社したばかりの新人です。
「もしかしたらAくんは広告の経験者として採用されたのかもしれませんが、入社3〜4ヶ月の20歳ぐらいの新人に、それほど重要な仕事を任せて、数ヶ月間もフォローしていなくてよかったのでしょうか?」
私がそう問いかけると、それまでAくんを責めていた他部署のマネージャーたちが、お互いに顔を見合わせながら「そう言えばそうだよな……」という雰囲気に変わっていきました。
少しの間を置いて、社長が静かに口を開きました。
「いくら、分からないことがあったら聞いてこいと指導していたとしても、Aくんの上司はBだ。
Bは、どうして今までAくんをフォローしていなかったんだ。
それに、私もさっきAくんを一方的に責めてしまったが、このような責任を個人に押し付ける雰囲気を作っていたのは、私の責任だ」
社長のこの言葉に、他のマネージャーたちも深く考えさせられている様子でした。
全体コンサルの後、私は毎回各部署のマネージャーと個別面談を行っていたのですが、ある30代のマネージャーからこのような言葉をかけられました。
「私たちは、自分たちのやり方が当たり前になりすぎていて、問題が見えなくなっていることがあると思います。
今回のように、コンサルの岡崎さんから見ておかしいと思うところは、いつでも指摘してください。
私たちも改善して、会社をもっと良くしていきたいです」
■ 3.【メンタルブロックの『利得』と構造の反転】
この事例において、マネージャーのBさんは「部下に自分で考える力をつけさせるため」という正当な理由を持って指導していました。
しかし、心の構造から見れば、プレイヤーとして優秀だったBさんは、無意識のうちに「自分のやり方が正解であり、他者も同じようにできるはずだ」という前提を持っていたのです。
部下に仕事を丸投げし、細かなフォローを避けること。
それによって、「教える手間」や「相手のレベルに合わせるもどかしさ」という不快な感情から、自分の心を守ることができていました。
これが、無意識下で得ていたメリット(利得)です。
この無意識の奥で起きている仕組みは、以下の多重構造になっています。
[成果を阻害するマネジメントの多重構造]
| 階層 | 構造の名称 | 具体的な状態・心の声 |
| 【表層】 | 表面上の悩み | 「部下が自分で考えない」「ミスを隠す、あるいはミスに気づかない」と部下を責める。 |
| 【1層目】 | 心のブレーキ(制限) | 「手取り足取り教えると部下が依存して育たなくなる(だから突き放さなければならない)」という思い込み。 |
| 【2層目】 | 無意識の防衛(利得) | 「自分で考えて聞きに来い」というルールに逃げ込むことで、マネジメントの責任や、教える側の未熟さと向き合う痛みを避ける心の働き。 |
| 【3層目】 | 根本にある痛みの記憶 | 自分自身が過去に「厳しい環境で自力で這い上がってきた」という原体験や、手厚いフォローを受けられずに孤独に成果を出さざるを得なかった記憶。 |
■ 4.【なぜ頭で分かっても変われないのか?】
多くのリーダーは、マネジメント本を読んだり研修を受けたりして、「部下の話を傾聴しよう」「適切なフィードバックをしよう」と頭(理性)では理解しています。
しかし、いざ実際の現場で部下がミスをしたり、期待通りの動きをしなかったりすると、つい「なぜ聞きに来ないんだ」「やる気が足りない」と怒りの感情が湧き、突き放した対応をとってしまいます。
なぜなら、その「突き放す」という反応は、あなたが冷徹だからではなく、あなた自身の潜在意識にある「仕事とは自力で勝ち取るものだ」という強い制限となる思い込みやメンタルブロックが、あなたを守るために自動稼働しているからです。
自分が苦労して身につけたやり方を「正当化」したいという無意識の欲求は非常に強烈です。
そのため、頭の自制コントロールだけで「優しく教えよう」と無理に感情を抑え込もうとするほど、内面の抵抗が強くなります。
結果として、部下への嫌味となって言葉に表れてしまったり、上司側のピリピリとした空気として職場に蔓延し、部下がさらに質問しづらくなるという悪循環を引き起こしてしまいます。
■ 5.【セルフチェック】
普段の忙しい業務の中では、自社のマネジメントがどのような状態になっているかを客観的に自覚することは困難です。
他社の事例は冷静に見えても、自社のこととなると「これが当たり前だ」と思い込んでしまうからです。
ご自身の組織の日常に意識の焦点を当て、以下の状態が起きていないかチェックしてみてください。
[あなたの組織の「マネジメント不全」チェック]
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[ ] 「分からないことがあればいつでも聞きに来い」と言っているのに、部下がほとんど質問に来ない
(解説:上司のピリピリした空気や過去の否定的な態度が原因で、部下側が「聞きに行けない」心理状態に陥っています)
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[ ] 部下のミスやトラブルが発覚した際、その背景にある仕組みや指導体制よりも、まず「本人の責任感や能力の低さ」に目が向く
(解説:問題を個人の資質に帰属させることで、マネジメント側の非や仕組みの不備から無意識に目を背けています)
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[ ] プレイヤーとして非常に優秀なマネージャーの部署ほど、離職率が高かったり、特定の個人に仕事が依存している
(解説:高い能力を持つ上司のやり方が正当化され、未熟な部下をフォローする仕組みが機能していません)
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[ ] 「自分で考えるクセをつけさせる」という名目で、具体的な進め方や判断基準を教えないまま仕事を任せている
(解説:自立を促すという大義名分の裏で、教える手間を省くための防衛パターンが働いている可能性があります)
部下が育たない、あるいはやる気を失っているとき、心の中や組織の構造ではこのような反応パターンが起きています。
まずは現状の構造に気づき、本人の問題なのか、マネジメントの問題なのか、仕組みの問題なのかを冷静に切り分けることが解決への第一歩となります。
■ 6.【本来の自分へ戻るステップ】
● 個人の責任を追及する場を卒業し、健全な仕組み化へエネルギーを向ける
セッションにおいて社長やマネージャーたちが「個人のミスを全員で責め立てる空気」の異常さに気づいたとき、組織の基準は大きく反転しました。
それまで「言われた通りに動くしかない」と萎縮していた周囲のメンバーも、上司側が自らのマネジメントの責任を認めたことで、格段に安心感を取り戻していきます。
自分の正当性を守るためのピリピリとした警戒心や、部下に対する過剰なイライラを手放したとき、リーダーの心には大きなゆとりが生まれます。
その後、この会社では個人の責任追及を止め、状況を詳しく確認して問題を切り分ける仕組みが作られました。
「自分たちのやり方が当たり前になっていて、問題が見えなくなっていたことに気づけました。
おかしいところを客観的に指摘してもらったことで、マネージャー陣が自ら行動を改善し、本当の意味で会社を良くしていく体制が整いました」と、メンバー自身が自発的に語るようになったのです。
部下のミスを「本人のやる気のなさ」として片付けるのをやめ、無駄な葛藤や摩擦に浪費していたエネルギーが解放されたとき、組織は本来の姿を取り戻し、本当に解決すべき「仕組み化」や「事業の成長」へと全力を集中発揮できるようになります。
■ 7.【終わらせる分岐点】
「自分で考えて動け」という言葉が、結果として部下の思考を停止させ、離職を加速させているケースは非常に多く存在します。
リーダー自身が過去の原体験に縛られたマネジメントから抜け出し、客観的に組織の構造を見直すことこそが、強いチームを作るための分岐点です。
ここから先、その心のブレーキ、メンタルブロックを緩めていくルートは2つあります。
もし、ご自身のペースで、自分の心の中にある「メンタルブロック24種類心のクセ」のパターンを整理したい方は、以下のステップを読み進めてみてください。
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岡崎哲也
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