経営者のメンタルトレーニング 部下を叱れない

■ 1.【日常の違和感・痛みの自覚】

あなたは、部下に対して「ここは厳しく指摘しなければいけない」という場面で、なぜか言葉が詰まったり、叱るのを躊躇してしまうことはありませんか?

時代の変化に伴いハラスメントへの意識が高まる中、会社の信用を守るため、あるいは同じミスを繰り返させないために言わなければならないと頭では分かっていても、どうしても一歩を踏み出せないリーダーは少なくありません。

「言いたいことが言えない」というもどかしさの背景には、表面的なスキルの問題ではなく、あなたの潜在意識に刻まれた過去の記憶が影響しています。


■ 2.【セッション事例】

以前、50代の経営者Aさんから、こんなご相談がありました。

(許可を得て、本人が特定できないように加工してご紹介します)

「部下指導で仕事上のミスや失敗、あるいは顧客に迷惑をかけたり会社の信用につながる事態が発生したとき、厳しく叱ろうとするのですが、なぜか心にブレーキがかかって叱れないんです。

叱ったとしても、自分が本当に言いたいことが言えていない感じが残ります。

これまでは、湧き上がる感情を抑えながら諭すようにしていましたが、納得のいく指導ができず、そんな自分自身にイライラすることも多くありました」

私はAさんに、叱ろうとしたときに心の中で何が起きているか詳しく問いかけていきました。

するとAさんは「胸の奥がチクチク痛み、まるでナイフのようなものが突き刺さっている感覚がある」と語り、そのきっかけとなった20代後半の出来事を教えてくれました。

当時、入社5年目だったAさんは重要なプロジェクトを任され、部下と顧客先でのプレゼンに向かいました。

しかし、待ち合わせの時間になっても部下が現れません。

その部下は、顧客から依頼されていた重要なデータ資料の作成を担当していました。

20分遅れで到着した部下と共にプレゼンを終えましたが、事前にAさんがチェックして指示していた修正内容が全く反映されていませんでした。

顧客への責任感から、Aさんはその場で部下を強く叱責しました。

「お前に責任感はあるのか!会社を代表して来ているんだぞ!」と。

部下はうなだれたまま反論しなかったそうです。

しかし翌日、上司である課長と社長から別室に呼び出され、「事情は分かったが、お前は部下に強く言い過ぎだ」と逆に厳しく叱られてしまいます。

納得がいかず反論したAさんに対し、上司が告げた理由は「その部下が、叱られたショックで会社を辞めたいと言ってきたから」というものでした。

Aさんは、正当な理由で指導したはずの自分が否定されたこの瞬間に、胸の奥にナイフが突き刺さり、「叱たらダメだ」という強いブレーキがかかるようになったと振り返ります。

さらに深く内観を進めていくと、Aさんはこのナイフがもっと幼い頃から刺さっていたことに気がつきました。

小学校低学年の頃、2歳下の弟と遊んでいた際、ゲームに負けた弟がヤケクソになって物を投げつけ、つかみかかってきたそうです。

やめろと言っても聞かないため大喧嘩になった夜、父親から「お前の方がお兄ちゃんなんだから、なんで我慢できないんだ!」と問答無用でゲンコツをされ、強く叱られました。

「先に手を出したのは弟なのに、なぜ僕が怒られなければいけないんだ。

悔しい、本当に悔しい……」

その圧倒的な理不尽さと痛みの記憶こそが、Aさんの胸の奥に最初に刺さったナイフの正体でした。


■ 3.【メンタルブロックの『利得』と構造の反転】

Aさんは「部下が傷ついて辞めてしまうのが怖いから、だから叱れないんだ」と思っていました。

しかし、心の構造から言えば、幼少期に「正しい主張をしたのに、力のある存在(父親)から理不尽に否定された」という深い痛みを経験したことで、無意識のうちに「これ以上傷つかないために、自分が怒りや指摘を表明するのをやめよう(叱るのをやめよう)」というパターンを作り出していたのです。

周囲との衝突や、自分が再度否定される痛みを避けること。

それが、このメンタルブロックが無意識下で提供していたメリット(利得)でした。

この無意識の奥で起きている仕組みは、以下の多重構造になっています。

[部下を叱れないメンタルブロック多重構造]

階層 構造の名称 具体的な状態・心の声
【表層】 表面上の悩み 会社の信用に関わるミスや失敗に対しても、部下を真っ直ぐに叱ることができない。

【1層目】 心のブレーキ(制限) 「相手を指摘したり叱ったりすると、自分が悪者にされ、大切な存在を失う(あるいは自分が激しく否定される)」という思い込み。

【2層目】 無意識の防衛(利得) 自分の内なる言葉や要求をあらかじめ抑え込むことで、二度とあの理不尽な拒絶や痛みを味わわずに済むように自分自身を守る心の働き。

【3層目】 根本にある痛みの記憶 幼少期に弟との喧嘩で父親から一方的に叩かれた記憶、そして20代で部下を正当に指導した結果、上司や社長から背後を突かれる形で否定されたダブルの理不尽な記憶。


■ 4.【なぜ頭で分かっても変われないのか?】

ビジネス書や研修などでは、「正しいフィードバックの技術」や「感情に任せない叱り方のスキル」を学びます。

しかし、頭(理性)だけでいくら「経営者として、上司として、言うべきことは毅然と言わなければならない」と自分に言い聞かせても、いざその場面になると身体や心がすくんでしまうのが現実です。

なぜなら、その「叱れない」という反応は、あなたが頼りないからではなく、過去の強烈な痛みの記憶からあなたを守るために、潜在意識の制限となる思い込みやメンタルブロックが全力で稼働している状態だからです。

子供の頃や若い時代に取り込んだ学び、安定したショックな感覚の方が圧倒的に強烈なため、頭の自制コントロールだけで突破しようとすると困難を極めます。

あなたが気合いで無理に言葉を絞り出そうとしたり、逆に我慢して感情を押し殺そうとすればするほど、潜在意識の制限となる思い込み、メンタルブロックと衝突して抵抗が強くなります。

結果として、胸の奥のチクチクとした痛みが増したり、自分に対するやり場のないイライラがストレスとなって内側に溜まり続けてしまうのです。


■ 5.【セルフチェック】

普段の生活のなかでは、こうした胸の奥にある感覚やメンタルブロックは、無意識・潜在意識の領域にあるため、なかなか自覚することができません。

普段の意識状態と、無意識が働く脳波の周波数が異なるため、日常の忙しさの中では見落とされがちです。

テレビのチャンネルを合わせるように、ご自身の内側の反応パターンに意識の焦点を当て、以下の状態が起きていないかチェックしてみてください。

[あなたの「叱れない度」・現在の反応パターンチェック]

  1. [ ] 部下が同じミスを繰り返したり、顧客に迷惑をかけたりした瞬間、言わなければと思いつつも胸のあたりが重くなったりチクチク痛む感覚がある

    (解説:過去に相手を指摘したことで発生した、予期せぬトラブルや痛みの記憶が現在の感覚と結びついています)

  2. [ ] 注意や指摘をするときに、相手の顔色や反応を過剰に気にしてしまい、言葉を濁したり、一番伝えたい核心を引っ込めてしまう

    (解説:相手から嫌われることや、反発されて自分が「悪者」になることへの心理的ブレーキが働いています)

  3. [ ] 「自分が強く言うと、相手が傷ついて会社を辞めてしまうのではないか」という過度な恐怖心やプレッシャーが常に付きまとう

    (解説:正当な指導と、相手の進退を無意識の中で過剰に結びつけてしまう制限となる思い込みが潜んでいます)

  4. [ ] 言いたいことを我慢してその場をやり過ごした後、適切な指導ができなかった自分に対して強いイライラや自己嫌悪を感じる

    (解説:無意識の防衛パターンによって本来の適切なパワーの発揮が妨げられ、エネルギーが内側で渋滞を起こしています)

もし部下を叱ろうとしたとき、どうしても叱れないとしたら、心の中でこのような反応パターンが起きています。

普段はなかなか気づかない感覚ですが、原因が分かれば救われる部分があり、まずは現状のパターンに気づくことが解決への第一歩となります。


■ 6.【本来の自分へ戻るステップ】

● 「痛みの記憶」を終わらせ、本来の経営・マネジメントに集中する

セッションにおいてAさんは、私のサポートのもとで無意識のイメージの世界に入り、長年胸に刺さっていたその「ナイフ」の取手をしっかりと握り、ゆっくりと引き抜いていきました。

イメージの中で引き抜いたナイフを地面に落とすと、カランカランとリアルな金属音が響き、その瞬間、Aさんの表情は晴れ晴れとしたものに変わりました。

改めて部下を叱る場面を想像してもらうと、「もうナイフは見当たらないし、痛みもありません。

不思議ですね」と驚かれていました。

過去の理不尽な拒絶や痛みに備えるためのステージ(内なる戦い)を卒業し、本来の安心感を取り戻したとき、心には大きなゆとりが生まれます。

その後、Aさんは部下を叱ろうと思ったときに、自分が思った通りの言葉で、真っ直ぐに指導ができるようになりました。

「叱りたいのに叱れない、という自分へのイライラやストレスが全くなくなりました。

それだけでなく、言うべきことを毅然と伝えることで組織全体が健全に引き締まり、部下の失敗やトラブル自体が劇的に改善されていったのです。

今では、余計な葛藤にエネルギーを奪われることなく、本来の会社経営に100%集中できるようになりました」

かつて自分を守るために必要だった過剰な警戒を手放したとき、無駄な葛藤や迷いに浪費していたエネルギーが解放され、本来の姿を取り戻し、本当に使いたいことに集中発揮できるようになるのです。


■ 7.【終わらせる分岐点】

リーダーが「言いたいことを言えない」状態のまま組織を運営することは、結果としてハラスメントの予防ではなく、重大なミスや業務上のトラブルを放置するリスクへと繋がってしまいます。

現在のビジネス環境だからこそ、表面的なコミュニケーション術ではなく、内側にあるピリピリとした葛藤やブレーキの根本対策をおススメします。

ここから先、その心のブレーキ、メンタルブロックを緩めていくルートは2 あります。

もし、ご自身のペースで、自分の心の中にある「メンタルブロック24種類心のクセ」のパターンを整理したい方は、以下のステップを読み進めてみてください。

💡 じっくり自分で整理を進めたい方へ:「24種類の心のクセ」はこちら

そして、もし「頭では分かっているけど、どうしても自分では解決できない」「なぜなんだと自分を責めるループから一気に抜け出し、本来の自分を取り戻して実力を発揮したい」と感じる方は、安心してお問合せください。

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セルフイメージコンサルタント

岡崎哲也

 

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